<植木の病害虫>

ナラ・カシ類萎凋病(通称:ナラ枯れ)


2021年8月22日
神奈川県相模原市 相模原北公園
罹病木全景



2021年8月22日
神奈川県相模原市 相模原北公園
罹病木根元



2021年8月22日
神奈川県相模原市 相模原北公園
罹病木樹皮




2021年11月7日 神奈川県横須賀市
カシノナガキクイムシ メス



2021年9月15日 横浜市緑区
カシノナガキクイムシ オス

症状

1980年代以降、日本海側から被害が拡大し、近年、全国的に被害が増加し、今後の里山管理のあり方を問いかけるほどの重要病害。
カシノナガキクイムシが樹体に穿孔し、病原菌である運んでいた「ナラ菌」を樹体内に増殖させることで、通導障害を起こさせ、枯死に至る。7月中旬~10月ごろに主に発症する。

生態と発生条件

・被害を受けやすいのは、コナラ、ミズナラ、マテバシイなどブナ属を除くブナ科の広葉樹。(常緑のカシ類やシイ類にも被害が出る。)

・被害を受けやすい樹木は高齢化・大径化したものが目立ち、樹幹上部よりも、根元付近に集中して穿入する。直径10cm程度以下の小径木には穿入されにくい。

・直接的原因となるのは、ラファエレア菌(Raffaelea quercivora。通称ナラ菌)。菌類を運ぶのがカシノナガキクイムシである。

・カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)はナガキクイムシ科。体長4~5mmmm。本州~沖縄、台湾、ジャワ島、インドなどに分布。

・カシノナガキクイムシの新成虫が6~7月頃、ナラ菌を持って脱出し、6~10月頃、生立木に少数の雄が最初に穿入(径1.4~1.8mmほど)。集合フェロモンを放出する。一夫一妻制。

・7~10月頃、集合フェロモンにより、多数の成虫が集まり大量に穿入する(マスアタック)。

・メスが持つ菌のうから、樹体内にナラ菌が侵入。ナラ菌が蔓延し、罹病木は梅雨明け頃から萎れだして1~2週間ほどで枯死させる。メスは坑道内で産卵。

・幼虫は坑道の壁に繁茂した酵母などを食べて成長。蛹化して越冬する。

・被害のエリアは2019年において42都府県(北海道、沖縄、愛媛、大分、富山を除く)。神奈川県では2017年に初めて箱根町湯本や三浦市小網代等で確認。

防除法

・罹病すると有効な対処法はなく、以前は予防と駆除が対策の柱とされたが、その効果はほとんど見られない。根本的な解決には伐採により萌芽更新を促し、雑木林の若齢林化を進めていく処置などが望まれている。

■予防
・専用の殺菌剤の樹幹注入(開葉期から成虫脱出前に実施。穿入後の処理は効果無し)。
・樹幹に被覆材(粘着剤、ビニールペットボトル工作物等)を塗布もしくは巻き付け、物理的に防御する。(ただし、被覆されていない部位からの侵入は防げない) など。
■駆除
・被害木を伐倒、もしくは立木のまま、くん蒸剤にて処理。(10~5月。それ以外の時期の伐採は被害を拡大する危険性がある。)
・誘引捕殺(フェロモントラップなど)など。

備考

・以前は「ブナ科樹木萎凋病」などと呼ばれたが、ブナ類には被害がないため改称された。

・罹病木はその年に枯損に至らずとも、翌年以降も攻撃を受け続け、最終的には枯損に至ることが多い。

・枯死木1本には、数百~数千孔の穿入孔が見られ、翌年には1穿入孔当たり数十~数百頭が羽化脱出するとされる。

・フラスの形状は、最初のオス成虫が穿入時は繊維状、交尾後にメス成虫が坑道を堀る時は団子状、幼虫が出すのは粉末状となる。

・世界的な樹病である「ニレ立枯病」もキクイムシが病原菌を媒介し、急激な萎凋症状を引き起こすという似た仕組みと言える。
参考文献)
ナラ枯れ被害対策マニュアル(日本森林技術協会)
「ナラ枯れと里山の健康」,黒田慶子編著,林業改良普及双書,2008
「ナラ枯れ被害を防ぐ里山管理」,黒田慶子編著,林業改良普及双書,2023
など。


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